2008/08/01
大型収納家具の中で壁と壁の間に挟んでしまう構造の物は自立型の家具に比べて大きさの割には、製作費が安い、倒れ防止が容易の2つの点で優位性の高い物となります。 私の作った大型家具の殆どがこの壁に挟み込む構造としており、是非ともお奨めしたいタイプです。
製作費がなぜ安くくなるかというと、自立型の家具では左右に撓むのを防止するために背面の板を取り付けるのが常識ですが、左右の壁に固定してしまえばその必要はありません。 また塗装に関して左右と上面は壁や天井に密着しますので外側の面の塗装は不要になります。 背面の板もなく壁面そのものとなりますので背面の内側も塗装は不要です。 これら全てが材料費の節減に繋がります。 また製作した家具を壁面と連結しやすいですから倒れ防止も簡単に出来てしまいます。 壁と壁の間に挟んでしまう構造というと如何にも作るのが難しそうですが、大きいための作業量の増加はあるにしても作業の難易度が自立型の家具より高くなるわけではありません。
さて本題に入りましょう。 お奨めの構造を結論から言ってしまうと、左の図に示すような田の字型
構造ということになります。 ポイントとしては垂直の板は全て1枚板とします。 また各棚板は同じ
高さに並べるのを標準としておきます。(洋服・整理ダンスを作る場合などではそうしたのでは出来
ませんので、棚板の高さや枚数は変化しますが?) 尚ここで図示しているのは固定棚だけで
す。 高さ可変の棚は組み立て上影響しないので描き込んではありません。
この田の字型には2つのバリエーションを考えます。 右の図をご覧下さい。
前面から見ると田の字構造であることには変わりありませんが、横から見ると
奥行きが下から上まで同じ場合と、下から途中まで奥行きが深くその上は浅く
なる構造の2つが考えられます。 この二つを組み合わせれば、田の字構造1本に絞ったとしてもかなりの変化をもたらすことが可能です。
それと実際には収納する物を丸見えにするのではなく扉で隠すことが多いでしょうし、引出しとした方が収納効率
が良い場合もあります。 従って最終的な外観としては田の字構造だからといって本棚のような見え方がするわ
けではありません。 実際の所私の作った大型収納家具のうち、LDルーム、廊下の窪み、個室1、個室2、寝室に
作った物、そして大型本棚の基本構造は田の字型或いは棚板位置が一部上下にずれたものです。
田の字型の変形の例えば左の図のような側板が上から下まで1枚板でないような構造は、抜けた
中央に視線を集める効果があり格好良さそうですが、棚板が下方向に撓み易く背面の壁への固定
など構造が複雑になり組立ての難易度も上がってしまいます。
私が製作した家具の中で、家事スペース、書斎等に作った物はかなり難易度の高い構造の例です
が、こういった物は幾つかの家具を作って色々なコツを体験の中から会得した上でチャレンジするこ
とをお奨めします。
ところで同じ田の字構造でもブロックを作ってそれらを連結するとい
う手法で作られる方を時々見かけます。(右の図クリック)
その理由としては組み立て易いからという考えにあるようですが、材料負担が大きくなるのと全重量
が重くなるので、あまり面白くありません。 例えば3ブロックを繋ぎ合わせて作ると側板(垂直に立
つ板)は2枚余計に使い、奥行きが600mmの場合には4 x 8 1枚となりますからこれだけで1万円以
上の出費になります。
このタイプの最大の弱点は左右の壁の間にぴったりと嵌め込むのは非常に困難!という点にありま
す。
ということで、田の字構造が初めて収納家具を作る場合のお奨め基本構造ですが、設計上、組立て上の勘所について更に詳しく説明致します。
田の字構造の詳細
左の図をクリックして下さい。 ここに田の字構造の家具で壁と壁の間に挟みこんでしまう収納家具
の設計上と組立て上の詳細が描かれています。(板は全て18mmのシナ合板で、棚板や側板の枚
数を限定しているわけではなく一例です。 また高さ可変棚は省いてあります。)
図中ベージュ色と空色で着色した材料は全てこの家具の奥行きと同じ板幅にします。 一番上の
ピンクに染めた板幅は100-200mm辺りで自由に設定でき、1箇所辺り2-3枚使います。(これは効
率の良い板取を考える上で好都合です。) 垂直の側板は全て[天井高-5mm前後]として考えま
す。 一般には天井高は2400mmが多いため4 x 8の合板の長さを少し詰めれば良く板取上好都合
です。
側板を天井高より5mm前後短くする理由は、こうしないと側板を立てた状態で移動するのが困難な
ことと、実際に組み立ててみると良く遭遇することですが、天井高は場所場所によりミリ単位でばら
つきがあり、いきなり天井との間に全く隙間がなく組み立てよう!なんて考えると、高さの調整の為
に製作難易度が高くなってしまうからです。
側板上部の左右のブレを抑えるためにピンク色の板を挿入しこの板は天井の桟に固定しますが、この部分
には幅が狭い幕板を貼ってしまえば完成後の見栄えには影響しません。 また左右両端の側板の上の隙
間も実際にはそれらの側板は壁に密着しますから全く見えなくなってしまいます。 仮に片方の側板の外側
が見えるような場合にはその隙間に組立て終了後薄い板を挿入してしまえば良いです。(右写真参照。)
これらの側板と固定棚の接合(締結)には、8φの木ダボ、3.3φ 45mmスレンダースレッドネジ、そして木工ボンドの3点併用をお奨めします。 木工ボンドだけでは圧着保持がほぼ不可能なため十分な強度が取れません。 また木ダボは接合位置を固定する効果を期待しており接合強度増加には余り効果がありません。 ネジ締めに関しては板が直行する部分は斜め打ちしないとならない部分が生じますが、これはやってみれば簡単にそのコツを会得できると思います。 各接合部のネジ締めの方向はこの図の下のほうに一覧にしています。
変わっているのは最上段の左右の角で横の板と縦の板はネジで締結されません。 しかし実際には左右端の縦の板(側板)は壁面にネジ止めしてしまいますし(3.5φ 65-75mmのネジを使う!)、ピンクの板も天井の桟にネジ止め(3,5φ65mm前後)してしまうので、変なぐらつきは起きない筈です。
ところで図中空色の板は組立て時にそれらの左側とは異なる組み立て方をしますが、それについては次の解説をご覧下さい。
田の字構造の組立て順序 その1
田の字構造の家具の組立て順序を詳しく述べておきます。 ここで解説する方法は私自身がこれ
までに試した方法の中で、多少時間は掛かるものの(接着剤の硬化時間が占める。)作業が容易
であると思われる方法です。 一部の作業においては助っ人がいれば楽になりますが、助っ人には
力を必要とはしません。
尚組み立てる前に木ダボの穴あけ、可変棚を受けるためのニッケルダボの埋め込み、スライドレー
ルの固定、スライド蝶番の座金固定については全て済ましておきます。(固定精度を考えるとその
方が有利で、特にニッケルダボは組立て後に打ち込むのはかなり困難になります。)
1番目:
床の上にて側板の一枚に固定棚を接合します。(木ダボ、ネジ、木工ボンド併用) 接合した固定棚の直角度が出ている
ことを確認した上で木工ボンドを完全硬化させます。(3時間以上) 一番左端の側板は壁面に垂直に近い状態で立てか
けます。 木工ボンドが完全硬化後、固定棚の未接着側に木ダボを差し込みその面全体に木工ボンドを塗りつけて、ゆっく
りと側板を起こし壁に立てかけた側板のところへ移動します。
2番目:
壁に立てかけた側板の各木ダボ穴に棚板に打ち込まれた木ダボを嵌め込みます。 その後壁側に強く押して(或いは玄翁
で叩き込む。)密着させます。
3番目:
左側の木ダボの嵌め込みが外れないよう組み上がった状態を維持しながら全体を右に移動し、左側の側板から棚板にネジ
止めします。(直角に締め込みます。) 移動時に外さないようにするのがコツで、これを超えれば後は容易です。 組み立
ててから起こしたのでは間違いなく天井に引っ掛かって立てることが出来ません。
4番目:
組み上がった物を再び壁側に移動し壁に押し付けます。 その上で次の側板に固定棚を接合し、木工ボンドが完全硬化す
るまで寝かせます。 木工ボンドが完全硬化後2番目と同様の手順で既に組みあがった部分に嵌め込み左からネジ止めし
ます。(斜め打ちとなります。) 同じ作業を残りの右端の側板を除く全ての側板に対して施します。
5番目:
一番右側の側板には棚板を固定する桟を予めネジと木工ボンド併用で固定しておきます。 一番右端に使う棚板は内寸を
コンベックスで測った値に切断します。(現物合わせ!) またその棚板には左側だけ木ダボを埋め込みますが、木ダボの
突出量は5mm弱と少なめにしておきます。 そして棚板を左側から接着し右側を上から押し付けて固定した桟に(予め木工
ボンドを塗っておく。)当てます。 その上で右側は上からネジ止め、左側は斜め打ちで棚を固定して組立ては完了です。
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ここで組立て時に心得ておくことについてまとめて触れておきます。
先ず接合の密着度でが大事であることで、材料の切断が正確に出来ていても各接合部分に隙間があるとその累積は一番右側の棚の内寸が設計値よりも減少したり、各側板の垂直度が狂ってきます。 また密着度不良は強度不十分にも繋がります。 従ってネジ止め後には必ず密着していることを確認しないとなりません。 もしも隙間が生じているようであればネジを一旦完全に緩めて、側板を押したりあて板をして玄翁で叩くなど、棚板との間に隙間が無くなるようにしてからネジを締めなおします。
次はは固定棚の切断が直角になっていることの重要さで、切断の直角度が悪いと各ブロックが1直線にならず曲がったりうねるような結果を生みます。 勿論固定棚の棚幅の寸法が狂っていると側板が反ってきたり側板の垂直度が悪くなってきます。 これらを十分確認した上で組立てに入らないとなりません。
一列ごとに木工ボンドの硬化時間を必要としますから、1日で組み立てられるのは3列が限度だと思いますが、決してあせって作業を進めないことが重要です。
これが終了しましたら全体を再確認した上で、左右端の側板を壁(実際には間柱など)にネジで締結、ピンクの板を天井の桟に固定し底へ側板の上部をネジ斜め打ちで固定してやれば、地震がきても倒れない頑丈な本体になります。
田の字構造の組立て順序 その2
上の方が奥行きが狭くなった構造の場合の組立て方は、その1で述べた方法のバリエーションで
す。 またここで紹介する方法は、板取の勘所で触れた長方形ではない部材使用を避けたほう
が良い!という件についての代案でもあります。
具体的には奥行きの深い下部と奥行きの浅い上部は完全に切り離して考え、下の部分を完成させ
てからその上面が床だと考え、上の部分はその上に構築します。
唯一異なるのはその間にカウンターとなる板を挟んでやる事です。 左の図では紫色で示していま す。 このカウンター部分が2400mm以下であれば4 x 8合板でも作れますが、更に長い場合には合板を繋ぐか建築用の集成材を使うことになります。 LDルームの収納、家事スペースの収納、AVコーナーの収納では30mm厚幅600mm、長さ3600mmのタモ集成材の集成材をこの目的で使っています。 また個室2では4 x 8合板を切断して使いましたが、3600mmの長さがあるため途中で繋いであり、そのつなぎ目を目立たなくするため濃い色で着色しています。
このカウンターの受けの部分はピンク色の板となっており、その1の天井に固定したピンク色の板と同様幅
にはかなりの自由度があり、端材の有効利用が可能です。 このような構造で組み上げた場合、両側が壁
に挟まれている場合には壁に固定できますから問題ありませんが、両側とも家屋に固定できない場合には
背面に左右の振れを防止する補強を入れないと実用になりません。
右の写真は個室2の収納でカウンターを貼り付ける前の受けの部分の様子で、ピンク色の板に相当する部分はまちまちの幅で、材質もラワン合板、シナ合板がごちゃ混ぜです。 但し前面となる部分は正しく1直線になっておりますので、カウンターを乗せた後はピシッと収まりごちゃ混ぜの様子も見えなくなります。
ところで構造の検討の中で棚板の長さをどう考えたらよいかについて簡単に触れておきます。
誰でも避けたいのは棚板がそれに対する荷重で撓んでしまう現象で例え破壊には繋がらないとしても見た
目に良くはありません。 撓みを算出できる式でもあれば良いのですが、板の材質、厚み、荷重の大きさ、
荷重の掛かる場所の違いなどにより撓みは変化するので非常に複雑です。
私自身の経験則で申し上げると、VIC's D.I.Y.で紹介している大型収納家具の中で撓みが一番出ているの
は大型本棚です。 その撓みは誰が見ても直ぐに気が付く量ですが、高さ可変の棚板の厚みは18mm、幅
は600mmです。 左の写真はそのクローズアップですが、もし固定棚であればたわみの量はもう少し減ると思います。 何れにせよ本棚では極めて棚に対する荷重が大きくなりますので、同じ場所に普通の生活用品を載せた場合には撓みは全く問題ないと思います。
もうひとつの例は、鉄製のCチャンネルで撓み防止を施したLD
ルームの収納家具の棚で、重量のある沢山のアルバムを入れ
てあります。 ここで使ったCチャンネルによる補強は大変効果
的で撓みは発生しておりません。 棚幅は957mmもありますの
で、上記の本棚でもこのCチャンネルを追加すれば、撓みは殆ど
解消すると想像します。(Cチャンネル詳細は右の図)
改めてざっと私の作品を見渡した所、一般の生活用品で何重にも上に積み重ねるので
なければ、棚板の幅600mmまでは撓みの発生量は殆どないと思われます。(18mm厚
シナ合板で本棚を除く。) 但し鉄製Cチャンネルなどで補強するのであれば、1000mm
近くまで長くすることも可能です。 最も開き扉を付けるのであれば、扉の幅は余り大き
く出来ず(手前に開いた扉のスペースが必要になるため。)、400mm位が快適に使える
限度と思います。 そうすると観音開きで棚の幅は800mm前後となり一般的にはこの辺
りを限度と考えた方が良いかもしれません。
歯切れが悪いのですが、この寸法で収めないと駄目!!みたいなものはないというのが結論ですので、私の各作品の寸法図をご覧になり、自分に合った最適寸法を割り出してみてください。
家具の奥行きについてここでは特に触れておりませんが、その辺に関してはこちらをご覧下さい。 以上を元により効率的に構想をまとめ、詳細設計を進めることが出来ると思います。
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