2004/07/23
日曜大工においてもっともないがしろにされているのは塗装かもしれない。 完成した作品をそのまま(白木)で使ったり、水性ペイントでただ塗りつぶすだけという仕上げに甘んじている例も多いようだ。 そもそも塗装を本格的にやるにはスプレー塗装しかない思い込んでいる方とか刷毛塗りは仕上がりが悪くて駄目!とはなから決めてしまっている方もいて大変分の悪い作業のように思われる。
かく言う私も一時はスプレー塗装には適わない!と思っていたし刷毛塗りでどこまで仕上がりのレベルを上げられるか自信がまったくなかった。
しかし工芸品の塗装には未だに刷毛塗りで対処していることや、色々な話を聞いているとスプレー塗装の弱点みたいなものも沢山聞いたことや所詮家の中で作業するためにはスプレー塗装は持ち込めるわけがなく試行錯誤を経てよりよい塗装ということで今日に至っている。
これから述べることは私が試行錯誤の経験の中で得たことであり所謂独断と偏見に基づいているものではあるが、少しでも敷居が高いと思われている塗装作業についてその敷居の高さを低くできればと思っている。
●ニスについて
ニスの語源は、VARNISH にある。 Varnishには艶を出すというような意味がありこれをドイツ語的に読めば「ワーニッシュ」 → ワニス となり、長年日本ではワニスと呼ばれていたのだが現在ではニスという言い方が慣用的になっている。 従って艶を出すことが可能な塗料の総称とも言えなくはないが、顔料を混ぜて木目を塗りつぶしてしまうペイントに対し、あくまで木目を生かせる塗料としてニスは位置付けられてきている。
透明な塗料というとラッカーが思い出されるが、ラッカーはニトロセルローズ(セロファンの原料)を溶剤で溶いたものであり、乾燥時間が大変早いという特徴があるが、塗幕は余り丈夫でないのと、高湿度下では白化現象の問題がある。 とはいえ最近のラッカーはニトロセルローズではなく物性が遥かに優秀な合成樹脂を溶いたものに変貌しており、乾燥時間がかなり短い特徴を生かしスプレー塗料として販売されているものが多い。(木目を生かすという目的は透明の物を除いて無い。)
市販されている数あるニスの中で私が現在一番お勧めしたいニスは和新ペイントの油性ウレタンニス であり、mini-Shopでも扱っている。 こう書くと販売しているから薦めているんだな!とお考えの方が いるかもしれないが実はその逆であり、このニスを使い始めて7年を経過しその使用実績がよかったの で、販売するに至ったのである。 塗料の良し悪しの判断には大変時間が掛かるのでやみくもには販売 したくない私の方針がそうさせている。
このニスはいわゆる家庭用塗料とされる類のものであるのだが、通常ペイントなどで見かける家庭用塗料と業務用塗料に見られる大きな性能の差がみられない。 そして家庭用塗料に共通して見られる扱い易さはそのまま残っているから誠に都合がよい。
このニスの大まかな仕様は次のとおりである。
成分: 1液性ウレタン樹脂塗料
溶剤: ペイント薄め液
乾燥時間: 3-4時間(20℃ 指触乾燥) 6時間以上(20℃ 指圧乾燥)
塗り面積: 約8m2/リットル(2回塗り)
●使用する刷毛について
我々アマチュアにとって気軽に使えて良質な刷毛は急速に入手困難になってきている。 ニス塗りにはヤギの毛が良しとされているのだが、手頃な価格の刷毛というと最近では合繊の刷毛に取って代わってしまっている。 何故合繊の刷毛が駄目かというと、求められる刷毛の腰の強さにある。 簡単に言ってしまうと合繊の刷毛は弾性が強くて毛の先がピンピン弾きやすい。 これがスムーズな塗装を妨げる。 合繊の場合繊維自身が塗料を吸い込まないので、吸い込むヤギの毛に較べると独特のしなやかさに欠けるのであろう。
これには私自身も困っていたのだが和新ペイントで求めやすい価格で良質なニス刷毛を販売していることを知り使ってみた上でmini-Shopの扱い商品に加えた経緯がある。 1本ごとに絹糸で綴じた大変手の込んだしかしリーズナブルな価格で無論私の常用の刷毛となっている。 これを塗る作品の大きさに応じて使い分ける。 例えば床や大きな壁面のような場合には70-60mmの刷毛、中型作品であれば60-40mm、小型作品や木口の場合には40-30mm又はラック刷毛(これもヤギの毛を使ったもの)の13-30mm幅を適宜使用する。
●私の経験による塗装作業要領
実際の要領は写真を含めて後日紹介するが文字で表現すると次のようになる。
1.塗装面を#240ペーパーで研磨し下地作り
これが完璧になされたかどうかで仕上がりの質は決まってしまう。 いい加減な下地作りは後でどうにもならない。
例えばカンナ掛けされた材料を買ってきたからその必要は無い!と考えるのは大間違い。 #240のペーパーで得られる表
面のきめ細かさは予想外だ。 仮に表面が粗かったり凹みが#240では取れない場合には、#60 → #120 → #240という ようにペーパーの粒度を変えてやれば#240だけでいきなり研磨するより作業効率が上がる。
2.着色
生地仕上げではなく好みの色に着色したいのであればステインによって着色する。 お奨めは水性着色剤のポアステイン
だ。 mini-Shopでも扱っているが大変微粒子の顔料が使われており退色が少ない。 以前は染料を使ったものが多かっ
たようだが、染料は退色しやすく(某プリンターメーカーが宣伝している顔料系の退色しにくい特性はご存知と思う。)
これを原液のまま塗ると着色斑が出やすいので水で薄めてやったほうがよい。 私の例では殆どの場合水で2倍に薄めの
だが、それでも刷毛塗り3回でほぼ限界の濃度に達する。 薄く仕上げたい場合には、ステインを塗って15分ほど経ってから
ぼろきれで拭き取り、濃度の具合を見ながら塗り重ねる。
着色が終わったら完全乾燥後#240ペーパーで表面を軽く撫でるように研磨したほうがよい。 その理由は木繊維が水を吸
って起き上がりザラツキの原因となるからだが、木材の材質によってザラツキの出方にはかなり差がある。
3.一回目の塗装
ペイント薄め液を5-10%加えたものを刷毛塗りする。 メーカーの説明では原液そのままでも問題なく塗装できるとの説明が
多いが実際には僅かに薄め液を加えた方が結果はよいようである。 その理由は薄めることにより伸びがよくなることと塗り
厚を薄く抑えられることにあり、薄く出来るということは塗り斑、刷毛斑防止に繋がる。 但し薄めすぎると重ね塗りの回数を
増やさないと所定の塗り厚にならないから、5-10%加えるのが最も適当なようである。
塗り厚については仮に塗装面を立てたときにニスが垂れてこない程度に抑え決して厚塗りをしてはいけない。 1回目の塗
装の際にはニスのかなりの部分が木材に沁みこんでしまい期待するような艶が出来ないのが普通である。 よく1回塗りで
仕上がる塗料というのが宣伝されていることがあるが、ニス塗りの場合にはほぼ不可能だと考えてよい。
厚塗りが禁物である以外に同一部分を3回以上塗るのも禁物で、塗った部分が30秒過ぎたら如何なる理由があってもそこ
を再び塗るようなことも具合が悪い。 従って極力均等な塗り厚になるよう1回辺り刷毛に含ませるニスの量とそれで塗る面
積は試してみる必要がある。
4.一回目の乾燥
6時間以上寝かせることが必要。 出来れば翌日に2回目の塗装というほうがよい。 メーカーが表示する3-4時間の乾燥時
間は指触乾燥時間のことであり、2回目塗装前の研磨作業が出来る段階にはない。
5.2回目塗装前の研磨
#240-#400のペーパーで塗装面のザラツキがなくなるよう研磨する。 研磨しすぎて下地が出ないよう注意。 塗装前の下
地作りが良ければ、ザラツキ落としの感覚で作業できるはず。 この時白い研磨屑が出るがきっちり絞った雑巾で拭き取っ
て乾燥させる。
この2回目の塗装前の研磨をせずに塗装してしまうケースを見かけるが、塗装面の質は決して向上しない。
6.2回目の塗装
1回目と同様伸びのよさと塗り厚を均一にし刷毛目を付きにくくするため、5-10%の薄め液を加える。 一度塗ったところを塗
りなおすのは1回目以上に禁物だ。(塗り斑、刷毛斑の原因になる) 塗った部分が15秒経ったらもう2度とそこは塗らないと
いうのが私の感覚的な重要ポイントである。 また1回目は木部に沁み込む量が多いが2回目ではそのようなことは無いから
少ないニスの量で塗れる事を心得ておいたほうがよい。
7.2回目の乾燥
5時間以上経てば手で触れても指紋がが付くようなことは無いが、実際に使うのは溶剤の臭いが消えてからにしたい。
(概ね6時間は掛かると考えておいたほうがよい。)
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