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星夜撮影架台
 2007/08/08

 構想
 本テーマは折畳式日時計と同様
 夏休みの工作にどうかな?と考え
 ていたものですが、病気で長い休
 みを取ったため遅ればせながら紹
 介するものです。

 その名は星夜撮影架台と言い、
 時間と共に動いていってしまう天
 体を追尾して撮影した像が流れな
 いようにする道具です。

 いかめしそうな名前とは裏腹に簡
 単に製作可能で、理科の工作とし
 ても好適で天体の学習にも役立
 ちます。

 左の写真は固定撮影と言ってカメ
 ラを三脚に固定して長時間露出で
 撮影した例で、これはこれで趣が
 あるのですが、星像は完全に流
 れていて何が写っているのか判り
にくいです。  (右手下に見えるピンクの軌跡はオリオン座大星雲。 何れの写真も私が撮影したものです。)

こちらの写真はカメラを三脚に固定するのではなく、星の動きに合わ
せてカメラを動かすことにより(これを追尾撮影とかガイディング撮影
と言います。)
、星が点像になるように工夫しています。 

2つの写真の種明かしをすると何れもオリオン座を撮影しています。
上の写真はカメラを三脚に固定して秋の夜明け前に東の空から昇っ
てくるオリオン座を、後者は真冬ですがオリオン座がほぼ真南に来
たところを追尾撮影しており、何れもシャッターは約20分間開けて
います。 55mmのいわゆる標準レンズを使って撮りましたが、写り
方が異なり追尾撮影した写真の方がより多くの星が写っていて、星
座の形も良く判ります。 これは追尾撮影の最大のメリットです。

今回の製作テーマはこの右側のような写真を撮影する道具ですが、
星を点像に写す仕組みを簡単に説明しておきましょう。
星の日周運動は相対的なものであり、実は地球が自転しているた
めに止まっているはずの星が動いて見えるだけです。 従って地球
の自転と逆向きにカメラを回転させれば星は点に写るはずです。
具体的にどうすればよいかというと、架台の回転軸を地軸と平行に
設定し、1時間辺り15度東から西の方向に回転させます。

このような構造の架台を赤道儀と呼び天体望遠鏡に使われていま
す。 何だ!それだったら天体望遠鏡を買ってそれにカメラを取り付
ければ写せるじゃないか!と考える方もいるかもしれません。
しかし天体望遠鏡は結構重くかさばり、気軽にひょいひょいと!
(例えば旅行中に)というわけには行きませんし、まともな物は出費
も10万円を超えます。

この旅行の最中にという条件は意外に重要です。 と言うのは私の
住んでいる所は都心まで電車で30−45分の所で、街明かりとスモ
ッグ気味の空で2等星以上でないと星が見えない日が多く、キャン
プなど空の暗い場所に出かけた際に暗い天体も含めて撮影出来る
チャンスがあります。
そのような時に望遠鏡でやろうとしたら大変な重装備になるので、な
がら的に撮影なんて不可能ですが、今回作る物は大きさが240 x
150 x 40mmで、重量は1kg程度と予測していますので、他の三脚や
カメラを含めても運ぶのが大変ということはなくそのようなチャンスで
の撮影が容易です。                             (中央斜めに並ぶ三ツ星の下ににオリオン座大星雲が見える。 矢印の先)


星夜撮影架台の構造

 左の下手くそな図が星夜撮影架台の基本構造で、2枚の板の端を蝶番で連結し、板の片方
 に雌ネジを固定しそれに通したボルトを回転させることによりもう一方の板を押し上げる!

 という大変簡単な仕組みです。

 しかしこれが、上で述べた地軸に平行な回転軸(ここでは蝶番がそれ。)地球の自転と反対
 方向に回す仕掛け(ネジによる上の板の押し上げ。)という赤道儀に必要な条件を満たしていま
 す。  こんな簡単な構造ながら、撮影するレンズの焦点距離が50mm以下の場合、10数分程
 度までの長時間露出を与えても星が流れないよう写すことが可能です。


こんなに簡単な構造で星の動きを追尾できる理由について少々解説しておきましょう。
右の図は上の外観図を横から見たところです。 左端は蝶番で2枚の板を固定しています
から、下の板の右端に取り付けられたボルトを時計方向に回すことにより上の板を押し上
(上の板は回転)ます。  星は1日で360度回転しますから1時間では15度回転し1分
間では15/60度回転します。  ここで使用するM6のボルトは1回転で1mm進みますの
(これをピッチと言う。)、ボルトを1回転させた時に上の板が15/60度回転すれば、
星の動き(回転)と全く同じとなります。
そのようになるLの値を三角関数で求めて229.2mmが求められます。
詳しい使い方は製作と共に次週に説明しますが、この架台をセットして撮影を開始したら
押し上げるボルトに付けられたツマミを右回しで1分間に1回転してやれば星は止まった状態で撮影出来るという仕掛けです。


詳細設計

 詳しい設計はこちらの図面をご覧下さい。 大変容易に作れますが製作上で大事なポイ
 ントが幾つかあります。

 ・蝶番にがたがないこと。
  私はステンレス製の長蝶番を使いますが、沢山のネジで固定するため回転軸受けに若
  干の歪みが出て、がたが殆ど出なくなります。 普通の蝶番でもOKなのですが、敢えて
  蝶番と蝶番の軸が僅かに一致せず回転が渋めの方が好都合です。

 Lの長さの精度は重要。
  前述のようにLの長さ229mmは星の動きを追尾する上で大変重要です。 従って蝶番の軸中心と押し上げるボルトの軸中心が正確に229mmとなるよう加工せねばなりません。

・使用ボルトの太さは変更できない。
 M6W1/4"の2種類のボルトを使用しますが何れも他の太さの物に変更できません。 前者は太さが替わるとピッチが替わっ
 てしまうためで、どうしても変更したいのであれば三角関数を使ってピッチの値によりLの値を求めなおさないとなりません。
 後者は三脚や自由雲台の固定ネジ規格から来ていますから変更してしまうと固定不能となります。

・鬼目ナットは余りお奨めしない。
 M6W1/4"の爪付きナットを使いますが、これの替わりに鬼目ナットの使用はお奨めしません。 その理由は頻繁なネジ締め
 を繰り返すと柔らかな材質で出来ている鬼目ナットは磨耗が激しいためです。  W1/4"の爪付きナットは入手しにくいかもしれ
 ませんが、その場合には普通の六角ナットを使ってエポキシで固定する方法がよいでしょう。



2007/08/23

製作の詳細
最初にお断りしておきますが上の詳細設計で触れているように、蝶番の軸中心と押し上げるボルトの距離は正確に229mmである必要がありますが、その他の寸法の自由度はかなり高いです。 私は前掲の寸法図にのっとって製作しましたが各部の寸法及び寸法精度は殆ど気にする必要がありません。

最初に使用した材料について触れておきます。        
  使った材料:
  1.合板 厚さ18mmが1枚と9mmが2枚でそれぞれ250 x 150mmの大きさです。 木質はなんでも構いません。
2.蝶番 ステンレス製の長さ150mmの物を使いましたが、普通の蝶番を数個使うことで代用可です。
3.M6ボルト 長さが40mmの物を1本。 (これで最大追尾可能時間は7分ほど取れますが、更に長時間露出したい場合には長めにします。)
4.W1/4"ボルト 長さが20mmで自由雲台の固定に使います。 (板厚が替わった場合には長さを変更する必要性があるかもしれません。)
5.M6爪付きナット 1個必要です。
6.W1/4"爪付きナット 1個必要です。 入手できない場合には普通のナットで代用します。
7.タッピングネジ3.0φ 16mmのものを4本
8.輪ゴム普通の物を4本
9.自由雲台 これは製作材料ではなく実使用で使います。 小型で価格の安いもので十分です。 私は以前購入した\1,500.-前後の物を使いました。
10.三脚 これも実使用に際して必要で、小型ながらしっかりした物がよいでしょう。

製作の過程は以下の写真とそれらの説明をご覧下さい。 但し実用性と精度に拘わる部分だけの製作であることをお断りしておきます。

使用した材料全てです。 左は9mm厚の合板2枚で加工後貼り合わせます。 右は18mm合板とその上にあるのが上から、150mm長蝶番、1/4インチ 20mmボルト、M6 40mm ボルト、爪付きナット2種類です。

1/4インチボルトとM6ボルトは僅かな太さの違いですが、ネジピッチが異なり(1/4インチボルトの方がピッチが粗い。)ます。 爪付きナットはほぼ同じ大きさながら、ネジピッチが違うのでそれぞれ専用になります。

左が1/4インチ爪付きナットですが入手できなければ右側の普通のナットを使います。(その場合の取り付け方は最後の補足で説明します。)

18mm合板の裏側に1/4インチボルトの頭を沈めるための座繰り穴をあけます。 私は15φフォスナービットを使いました。

フォスナービットは少しずつ削って行くため彫る深さの調整は容易です。 1/4インチボルトにワッシャーを通して逆さに落とし込み、ワッシャーが板の表面から僅かに沈み込んだらOKです。

あけた底の中心には円錐状の窪みが出来ますから、これを使うと次の穴あけの中心が狂いにくくなります。

貫通穴には7φの木工ドリルを使いました。

その貫通穴があいた状態です。

9mm合板の下の板上面2箇所(三脚固定ネジ穴と追尾用ボルトが通るネジ穴)には20φの浅い座繰り穴をあけます。 深さは爪付きナットの板厚ですが、このように現物を当てた方が簡単。

次に8φの木工ドリルで貫通穴をあけます。 この8φの穴に爪付きナットの先を挿入します。

そうしたら爪付きナットが座繰り穴に完全に沈むまで玄翁で叩いてやります。(爪付きナットは板の面から絶対に飛び出ないこと。)

上板の同じ位置に7φの貫通穴をあけます。 (もう一度確認ですが、中央が1/4インチの爪付きナット、右端がM6の爪付きナットです。)

9mm厚の上下の板を木工ボンドで貼り合わせクランプで圧着保持します。 この圧着保持がいい加減だと撓みが出易くなりますので、十分にクランプを締め上げた方が良いです。(2時間放置。)

M6 ボルトの加工。 私の使った物はmini-Shopで販売しているセットキャップボルトで、先端が左側のようになっていて加工状好都合ですが、更に先を緩い凸面状になるよう金属ヤスリで削り、仕上げにはサンドペーパー(#240)を使って滑らかにしました。(右側)

そのボルトを固定するツマミにはビニールテープの芯に4mmの合板を丸く切った物を木工ボンドで貼り付けて、中心に6φの穴をあけています。

ボルトをナットを使って固定しましたが、このツマミの作り方はこの方法に拘らず色々工夫してみてください。

150mm長蝶番で18mm合板(左側)と9mm貼り合わせ合板(右側)に固定しました。 ネジ穴の位置関係を良く見てください。(爪付きナットは板の間に挟まれているので見えません。)

長蝶番固定のクローズアップ。 タッピングネジを強く締めこんでいるので蝶番は歪みだしているのが判りますが、これが軸部分のガタが無くなる事につながり好都合です。(こんな使い方は通常はしませんが?)

ツマミを固定したM6ボルトを底から捻じ込みました。

それを右側から見たところです。

1/4インチ 20mmのボルトにワッシャーを通し、上板の裏側から差し込んで自由雲台を固定します。 ボルトの頭は座繰り穴に埋まり飛び出ません。

蝶番を固定した反対側には4本の3.0φ 16mmタッピンネジを固定し、上下のネジの間に輪ゴムを2本ずつ巻きつけてやります。

追尾ネジを締めこんで行くと上の板を押し上げこのように隙間が空いてきます。 ガタがなく動きがスムーズであればOKです。

架台を使う時の設定方法。 蝶番側(実はこれが西側になります。)の板の上端角(黄色矢印)から覗いてその角の延長線上に北極星が来るよう三脚の垂直・水平の調整をして固定します。 これで長蝶番は地軸と平行になります。

自由雲台にカメラを固定して撮影の準備が出来た状態です。 この写真の場合には赤矢印の先が天の北極(北極星)を指している事になります。



カメラで撮影する方向は、自由雲台のこのネジを緩めて調整します。 現在のカメラの設定位置は南の空の方向になっていますが、殆どの方向の撮影が出来るはずです。
 

三脚も含めた全体のイメージ。 あとはシャッターを開けて追尾するだけです。

シャッターを開けたら追尾ツマミを時計方向に(白矢印)1分間に1回転させてやります。 そうすると上の板は赤矢印方向に徐々に上がって行きますが、この動き(回転)は星の日周運動に等しいですから長時間露出しても星は点像のまま撮影できます。

架台を北側から見た様子です。 追尾ネジは1分間に1回転で1mm上に伸びてきますが、約7mm伸びるとツマミが下の板に当たりますので、これが追尾の限界(約7分)となります。



補足

外観仕上げを除いた製作時間はゆっくりやっても4時間程度でしょう。 簡単に作れますが星を点像に写すための完璧な実用品です。

本来なら実際に私が撮影している様子や撮影した写真そのものをお見せすればもっと理解が深まるでしょうが、残念ながら私のすんでいる所では空の状態が悪いので少し遠くまで出かけないと写真は撮れません。  後日架台をより見栄えのする外観に仕上げた上で撮影に出かけ撮影した写真を紹介しようと思います。

 1/4インチの爪付きナットが入手できない時

 1/4インチの普通の六角ナットを使い次のような加工をします。(左図参照)
 先ず六角ナットの対角線を測りそれよりも1-1.5mm小さな丸穴を板にあけます。
 深さは板厚 - 2mm程度にします。 (突き抜ける手前のぎりぎりの方が良い。)

 そうしたらナットをその穴に叩き込むのですが、ただ叩き込む(圧入)しただけでは
 三脚の固定ネジを強く締め付けたときなどに、ナットが飛び出てきてしまう可能性
 があるので、叩き込む前に穴の内壁にエポキシ接着剤を塗っておき、簡単に破壊
 されないよう補強する必要があります。
 但しエポキシ接着剤がナットのネジ面に流れ込まないようにしないとなりません。

 完璧な方法としてはM6の爪付きナットに1/4インチのタップを使ってネジを切りなお
 してしまう手があります。 1/4インチは6.35mmですから、M6の雌ネジは完全に潰
 れて1/4インチの雌ネジを形成できますが、道具に余計な出費が出るのでお奨め
 しにくい方法です。




実際の撮影に関するヒント

以下に説明するような点に配慮すると良い写真が撮れると思いますので参考にしてください。

1.シャッターが長時間開いたままに出来るカメラの使用。
  シャッターダイアルにBというポジション(バルブと呼びます)があれば理想的です。 このポジションではシャッターボタンを押し
  ている間シャッターは開きっぱなしになります。 昔の銀塩カメラでは当たり前の機構でした。 最近のカメラは電子シャッター
  化されてBポジションがなく長時間露出も限定される物が多いですが、5分程度までの露出が可能であれば使えます。
  尚長時間シャッターボタンを押しているのは苦痛ですし、ぶれの原因になるのでケーブルレリーズやリモートコントロールの使
  用が原則です。

2.オートフォーカス、自動露出機構は不要。
  星の撮影時のピント合わせはレンズのピントリングに記載されたマーク(無限遠の意味)に合わせるだけでオートフォーカス
  は使いません。  また光の強さに応じて露出時間を決めるわけではないので、自動露出機構は不要です。  こんな意味で
  最近のカメラより昔の自動機構が入っていないカメラの方に相応しい物が多いです。

3.焦点距離は50mm以下で。
  焦点距離が長くなると星の日周運動への追尾精度が悪くなります。 こんなことから標準レンズといわれるような焦点距離
  (50mm前後)以下で試されることをお奨めします。 この辺りの焦点距離は星座、あるいは星夜と呼ぶような雰囲気のある写
  真を撮影するのに適当な長さです。

4.軽量なカメラの方が良い。
  レンズを含むカメラの重量が重過ぎると、架台の撓みが発生し易くなるので軽量な方が好結果を生むと思います。 目安とし
  ては1kg以下といった所でしょうか?

5.レンズは固定焦点で明るい方が有利。
  最近はズームレンズの方が一般的になりましたが、同じ焦点距離やレンズの明るさであれば、固定焦点のレンズの方が軽量
  で画質も優れているのが一般的です。 レンズの明るさとしてはF2.8以上欲しいところですが、例えばF1.4のレンズが使えると
  明るさはF2.8の場合の4倍ありますので、星のように暗い被写体の撮影に有利です。

6.高感度のフィルムの使用や高感度でノイズの少ないデジカメが有利。
  フジフィルムでは ISO1600のフィルムを販売しておりますが、こういった高感度フィルムの使用は大変有利です。 通常使われ
  るISO100にたいして計算上の感度は16倍ありますので、例えばISO1600のフィルムとF1.4のレンズの組み合わせとISO100
  のフィルムにF2.8のレンズを組み合わせた場合の感度は64倍にもなります。  例えば前者の組み合わせで1分の露出で済
  む場合に後者の組み合わせでは64分もシャッターを開けないと計算上は同じような露出になりません。
  デジカメの場合高感度になると急速にノイズが多くなりますので、ノイズ発生の少ないカメラを使う方が有利です。

7.条件の良い場所での撮影。
  光害の影響を受けていない空気の済んだ場所で撮影できれば、数分間の露出でも吃驚するくらいの写真が撮影可能です。
  その意味で架台をセットする際に使う北極星がやっと見えるような状態では長時間露出を掛けても写る星の数は少なく、空の
  明るい部分が感光して白っぽい背景になってしまいます。

8.撮影中は架台やカメラが動いたり振動しないよう操作。
  撮影中には1分間に追尾ツマミを1回転させないとなりませんが、この操作で架台を動かしてしまったり或いはカメラやレンズに
  触れることによりぶれた写真となってしまうことがあります。  そうならないよう神経を集中して操作する必要があります。

9.三脚は架台のセッティングが出来る範囲で脚を短めに。
  三脚の脚を伸ばせば伸ばす程三脚の撓みが増加します。 従って北極星を使って架台のセッティングをする際無理な姿勢を
  強いられない範囲で脚は短めにした方が良いです。

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