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正確に読める日時計
 
2003/06/19
製作構想

 日時計は人間の歴史の中で最も古くから発見され使われた時計と
 されていますが、ご存知の通り現在ではどちらかというと左の写真
 のような実用性よりも公園などでのアクセサリーとして使われている
 物が多いようです。 

 その理由としては日時計が正しく時刻を示すようにするには、幾つ
 かの条件を満たさねばならず、その為にかなりややこしい工夫を要
 するからです。 それらとは、

 1.標準時を定めた場所に対し日時計を使う場所の経度のずれ
   の補正。

 2.日時計を使う場所の緯度の違いに対する補正。

 3.方位磁石を用いて日時計を設定する時の磁気偏角の補正。

 4.地球の公転が楕円軌道であるために周回速度が変化し発
   生する時期による進み遅れの補正。

       公園のアクセサリーとして楽しいが実用性は?

の4つあります。 (これらの要素や精度の高い日時計に関する突っ込んだ解説は本稿の最後に掲載してあります。)

以上のうち1.から 3.の補正は固定的に出来ますから容易ですが、4.は季節により補正量が変化するのでかなりややこしいことになります。

しかしながら調べてみると、1.から 3.の補正がきちっとできると1年間で、

  ・15分以上の誤差が発生する日数は29
  ・10-15分の誤差が発生する日数は89
  ・5-10分の誤差が発生する日数は117
  ・5分以下の誤差が発生する日数は130

となります。  実際に作ってみると判りますが10分以下を正確に読み取るのはかなり難しくなってきますので、10分以内の誤差をを許容範囲とすれば、1年のうち247(1年の約2/3)ではその誤差範囲で使えることになります。  誤差15分までを許容してしまえば11ヶ月は許容範囲になります。

無論4.も補正できれば発生誤差の点では理想的となりますが、実は日時計の精度は上記の理論的なファクターもさることながら、工作精度や日時計のセッティング精度も大きく影響しますのでバランスを考え実用性が高くて気楽に作るという観点から、ここでは1.から 3.を満足させる方法を紹介しようと思います。

さてそのような日時計をどうやって作るかですが、日時計を作るソフトで簡単な応用で一番難しくて面倒な時刻目盛盤を作成できるフリーソフトがありますので、これを利用するのが手っ取り早いです。

 その名はSun Dial Makerと言い、「窓の杜」のソフトウェアのライブラリーからダウンロードできます。  
 或いは手っ取り早くSun Dial Makerをダウンロードしたければこちらから入れます。 

 このソフトをインストールし日時計を実際に使用する場所の設定を済ませて(住んでいる都市名か最も近
 いと思われる都市名を選べば良い。)
印刷すると左のような型紙が得られますから、これを厚紙などに貼
 り付けて下にある時刻を指す影を作る部分を切り抜いた上で所定の位置に固定すれば出来上がります。

 これの南北方向を実際の南北方向に合わせればOKですが、小学生の工作テーマとしては十分なものの
 時刻を指す部分(ノーモンと言います。)の工作精度、取り付け精度が出ないことや、使い方も含めて更
 に工夫する必要があり、それ次第で日時計の精度はかなり改善されます。
 (この問題はSun Dial Makerの有する欠陥とか責任に帰するものではありません。 念の為。)





次にSun Dial Makerで作った文字盤を元に時刻の表示精度を高めた1例を紹介します。  設計と言うほどのものではあリませんので図面は掲載せず構造や使い方を中心に解説しますが、精度の高い日時計を作る上での勘所についてよくご理解ください。

前面から見た日時計。 A3の紙で大きな文字盤を印刷しました。 中央の写真はこのソフトの機能ではめ込んだもの。 手前両側は水平調節のネジで、盤には鬼目ナットが埋め込まれています。 黄色いのは水準器です。

真後ろから見ました。 合板に目盛り盤を貼って3mm厚アルミ板をネジ止めしただけの簡単な構造です。
(使用するゴム紐を強く張りすぎなければアルミ板を薄い板に置き換えてもOKです。 )


時刻を示す影を作るゴム紐製のノーモン。 これと盤面の作る角度は緯度に一致します。 細めである方が時刻を細かく読み取れるようになります。

ノーモンを正確に取り付ける方法。 角度を調整するよりの長さを測り緯度の値(θ)と共にExcelで計算すれば簡単にが出せます。

ノーモンの上端をアルミ板に固定した部分。 この反対側でゴム紐を結び抜けないようにしてあります。

アルミ板の下部は合板にネジでがっちりと固定。 下に5mm突出していますがこれが水平調節の脚のひとつになります。

日時計の底面。 中央が抜けないよう結んだゴム紐で、右側にネジが2本見えますが、これとアルミ板の3本足で水平を調節します。

日時計の設置開始。 方位磁石(1-2度迄読めるものがあるとベスト)のN/Sを日時計のN/Sに合わせます。

磁気偏角分の補正をしてやります。(この値はSun Dial Makerが地域を選択すると表示してくれますし、印刷モードによっては目盛り盤に印刷されます。) 私の住んでいるところは+65303秒なので、7度地磁気の北は西の方にずれているとして補正しました。

最後に日時計の盤面が水平になるよう水準器を見ながら2本の蝶ネジで調整します。 このような状態にセットできれば、1m離れて±2.5mm以下の誤差で水平が出せます。

  予報では梅雨の晴れ間で日が射すかもしれないというので待つこと3時間。 ほんのりとノーモンの影が出来ました。
  16:45強と読め、腕時計は16:51分を示しています。 トップページの写真はこの後に撮影したものです。

  また冒頭で解説した4.の要因で発生する誤差を調べると7/15には5.44分遅れて表示されることが判りました。
  その分を補正すると1分以内の表示誤差と言えます。  これはすごい!!



この日時計が十分に使い物になることが一応ご理解いただけたでしょうか?  今回ご紹介したSun Dial Makerをうまく応用して文字盤を作り様々な日時計を作ることが可能ですが、精度の高い日時計を作るポイントをもう一度整理しますと、

 1.ノーモンの傾斜は使う場所の緯度に合わせる。 ぐらつかないよう盤面のN/S線上の真上に位置すること。

 2.方位合わせに磁石を使う時は磁気偏角の補正を必ず行うこと。
(北極星で合わせると1度程度の誤差で設定可能。)

 3.盤面が水平になるよう調節すること。 (これをやらないと意味がないくらい誤差が増えます。)

となります。 これらを守れば日時計の形体はどのようなものでも構いません。 印刷した文字盤を元に石に刻んで文字盤を作り庭に置けるような日時計もOKで、方位、水平出し、ノーモンの正確な取り付けさえ確保できれば高精度で時刻を読めます。

庭に置くアクセント、アクセサリーのようなものながら、実用になる日時計を作るなんていうのも楽しいアイデアです。

----- 完 -----


補足解説

  日時計の発生する誤差
   1.標準時を定めた場所に対し日時計を使う場所の経度のずれによる誤差
     太陽の動きを時計として利用する場合(太陽時と言います。)、地球の自転方向の位置の違い(経度の違い)
     は、標準時に対しての誤差を生じます。 地球の自転周期を24時間とすると経度が15度ずれると1時間の誤
     差となります。 国内で最も西の端に近い那覇市では東経約127度、最も東に近い根室市では東経約145
     と標準時を定めた東経135度に対し-8度から+10度のずれがあります。
     このため標準時に対して那覇市では太陽時は32分遅れ、根室市では40分太陽時が進むことになります。
     これは大きな誤差となりますので補正してやらねばなりませんが、Sun Dial Makerは自動的にその場所に
     合わせた目盛り盤の補正をしてくれます。

   2.日時計を使う場所の緯度の違いによる誤差。
     結論から言うと時刻を示す影を作るノーモンの斜めの線を地球の自転軸に完全に平行にすることにより
     緯度の違いから発生する誤差を無くすことが出来ます。
     このためには日時計の盤面とノーモンがなす角度をその場所の緯度と一致させればよいです。 極端な場
     合ですが南極と北極ではノーモンは垂直になり、赤道上では水平になります。

   3.方位磁石を用いて日時計を設定する時の磁気偏角による誤差。

     地磁気の北極と南極を結ぶ線は地球の回転軸に対し若干傾いています。 地球の回転軸方向が正しい北
     と南を指しているのですが、方位磁石を使って方角を定めると地磁気の軸の傾きによる誤差が発生します。
     これを磁気偏角と言いますが、場所により値が変わります。  国土地理院の2000年のデータによると最も
     ずれが生じるのは北海道北部で10度以上ずれる場所があります。 最も少ないのは小笠原諸島付近で4
     強、それ以外の地域では5-9度の間でずれがあり何れの場合も地磁気の北は西に傾いています。

     従ってこのずれの量だけ磁石の針が西に振れた位置でコンパスは正しい北を指すことになります。
     Sun Dial Makerでは都市名を入力するとその都市の磁気偏角の値を表示してくれますのでこれを参考にし
     て補正します。

   4.地球の公転が楕円軌道であるために発生する時期による進み遅れの誤差。
     地球は楕円軌道を描いて太陽の周りを公転していますが、太陽に近い位置では公転速度は速く、遠い位置
     では公転速度が遅くなります。  これが原因で太陽時の進み遅れが発生します。(これを均時差と言いま
     す。)


     当然ながら1年周期で発生していますが、最大の進みはは113日で約1630秒、最大の遅れは213
     で1430秒近く発生します。  但しそれらの日の前後数週間を除くと大半の日では数分から10分以内のず
     れとなりますので、日時計の実用性を大きく損ねることはないと思われます。
     Sun Dial makerではその日その日の均時差を知る事が出来ますから、厳密な時刻を知るには均時差の値
     を調べて補正してやればよいわけです。


  日時計が正確に表示するための他の条件
   1.工作精度
     地球の自転速度は1時間で15度です。 5分間で1,25度です。 従ってノーモンが作る影が角度で1度近く狂
     えば表示誤差も5分程度発生します。 同様にしてノーモンの水平面からの角度誤差、ノーモンを支える部分
     の垂直精度などの工作精度は全て表示誤差に大きく影響します。 

     従って工作教室などで出てくるボール紙で作る日時計などでは、前述の日時計が正しく表示する要因よりも
     工作精度の悪さの方が表示誤差の大きな要因となる可能性が大です。

     上述の私の製作例でノーモン支えに3mm厚のアルミ板を用いたのは精度確保と撓みを押さえるためで、
     ノーモン支え板の垂直取り付け精度は0.3度以内、ノーモンの角度誤差は0.5度以内になるようかなり神経を
     使って調整しアロンアルファでがっちりと固定してあるくらいです。  この辺りがこのテーマを日曜大工入門
     用として取り上げなかった理由です。

     これら工作精度をあまり気にしない日時計工作が意味無しとは申し上げませんが、工作精度の悪さによる
     表示誤差を「日時計はやっぱり不正確で使い物にならない!」と考えないようにすべきです。

   2.日時計の設定誤差
     日時計で正しく表示させるには目盛り盤を正しく水平に置くことと、方位合わせを正確にする必要がありま
     す。 これらの誤差も1度以内に収められれば精度良く日時計が時刻を指すようになります。
     「日時計は正確ではない!」と言う理由の一部に実はこれらの設定が不十分と言うケースがありこれも全く
     日時計の責任ではありません。 

 以上かなり理屈っぽいことを申し上げましたが、日時計或いは日時計の工作を紹介している記事の中で大事な
 ことであるにも拘わらず殆ど触れられておりませんので、日時計の名誉を守るため解説しました。



  
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